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京都簡易裁判所 昭和47年(ろ)73号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕三、そこで、被告人に検察官が公訴事実において主張するように軽犯罪法一条二号違反の犯罪(以下「本罪」という。)が成立するか否かについて検討することとする。

(一) 本罪にいう「正当な理由がなくて」とは、違法性の原則を表現した注意的規定であり、かかる語句の存否にかかわらず社会観念上相当と認められる行為はその違法性は阻却されるものと解すべきである。しかして、違法性は単なる事実的概念ではなく価値関係的規範概念であり、現行実定法秩序から価値に関係づけられてひき出される規範的実質的なものであるから、当該行為が違法なりやの判断にあたつては、当該行為の結果のみならず当該行為の態様をもその判断対象とすべきである。従つて、本罪にいう正当な理由があるかどうかの判断にあたつても具体的事案に即し社会通念により当該行為の結果のみならず、当該行為の態様をも判断対象とすべきであるが、なお、軽犯罪である本罪の違法性は稀薄なものであるという特質をも充分に考慮し慎重にこれをなすべきものである。ちなみに、軽犯罪である本罪と正当な行為との間に一線を画することは極めて微妙な問題である場合も少くない。従つて、本罪の運用如何によつては、国民の正当行為を罰する不当な結果を招来し、国民の基本的人権を侵害することとなる。このようなことは、軽犯罪法四条の法意に反するものといわなければならない。それ故、本罪は銃砲刀剣類所持等取締法の補充的規定であるからとて同法における解釈原理がすべて本罪を解釈するについてあてはまるものと解すべきではない。それでは正当防衛の準備行為は本罪にいう正当な理由があるものといいうるのであろうか。およそ、正当防衛は法上国家が認める許容事由乃至正当化事由として存在するが、その防衛準備行為が純然たる防衛のための準備行為として目され、急迫の侵害に対し、否定的作用をもたらすことなしに防衛準備行為と急迫な侵害に対応する防衛とが連続する可能性を有する時には、この場合における防衛準備行為は、侵害の現実化の際において急迫な侵害に対応する防衛行為と一体化しうるものであるから本罪にいう正当な理由があるものと解すべきである。

これを本件についてみるに、被告人の司法警察員及び検察官事務取扱検察官に対する各供述調書によれば、被告人は護身用に本件木刀を本件場所に置いていたと述べているが、その護身用という表現にかかずらうべきものではなく、ことは具体的実質的に判断すべきものである。被告人は正業についている者であり、粗暴犯の前歴がなく、暴力団とは勿論関係のない市民である。被告人が、本件木刀を本件場所に置いていたのは喧嘩その他の斗争にこれを積極的に使用しようとしてではなく、若し、再び貴船のようなことがあれば、そのときは逃げられるだけ逃げ(被告人がこのような人格態度であることは、前記の如く木津川堤防附近道路上でライトを照らされたとき被告人としては相手の方が見えないから暴漢と思い込み逃げていることからもうかがわれる。―パトカーとしては赤色灯をまわすべきであり、声をかけてライトを照らすべきである。)どうしても逃げ切れないときに本件木刀を使用してその場の難を切り抜けようというためと健康保持のための素振りのためにも使用しようというためのものであるから、前者の場合についていえば、まさしく前述の如き正当防衛の準備行為として正当な理由があるものというべく、後者の場合についていえば社会観念上相当な行為として正当な理由があるものというべきであるが、このように正当防衛の準備行為として本件木刀を本件場所に置いていたのであるから正当な理由があるという判断をおくとしても、被告人は、本件木刀を剣道具店で買つて以来約九ケ月間平隠無事に本件場所に置き続けていること、木刀がスポーツ店、土産物店等で市販されていて誰にでも自由に入手でき子供から大人に至るまでのスポーツ用品の一種であるのが社会一般の実状であること、被告人は本件木刀を使用して喧嘩その他の斗争をしたことが一度もなければ、前記貴船のような事態に遭遇したことが一度もないこと、被告人が本件木刀をときどき素振りに使つていたことなどの諸事実に照して考察するときは、本件木刀は実質的にはスポーツ用品としての意味しかないというの外はなく、その護身用という表現方法の如何にかかわらず、護身用というのは形骸化した内容の空虚なものといわなければならない。従つて、被告人が本件木刀を本件場所に置いていたことは、本罪が所期する可罰的違法性に値しないものと解するのが相当である。

(二) 本罪にいう「隠して」とは、一般社会生活上他人の眼にふれぬような状態に器具を置くことをいい、他人の眼にふれぬような状態に器具を置くことについて犯人にその意思があることを必要とすべきである。従つて、器具の附近に置いてあつた風呂敷上衣等が被告人の意思に基かない自然力、物理力の作用により器具の上におおいかぶさつたとしても、この結果的状態を促えて犯人において隠す意思があつたといえないこと勿論である。しかして、「隠して」という解釈にあたつては、国会における軽犯罪の審議において、軽犯罪法が不当に拡張して適用され、国民の基本的人権が不当に侵害されることがあつてはならないと強く主張された経緯ならびに軽犯罪法の乱用を禁止する軽犯罪法四条の法意を尊重してなされるべきである。

これを本件についてみるに、本件木刀の長さ(一、〇一米)と本件自動車の構造(全幅約一、三米)から考えて、本件木刀は本件場所しか置く場所がないこと、即ち後部坐席であれ前部坐席であれ坐席の上に本件木刀を置くことはそこに坐る人の臀部に本件木刀が接触し、その人に不快感を与え、ことに前部坐席の場合には運転に影響し危険であり、急停車のときには本件木刀がはね上つたり、ころげ落ちたりなどして車内にいる人が思わぬ傷害を負う虞れがあり、また窓ガラス、車内の運転装置などに当り、それらを毀棄する危険性があることは経験則上充分に考えられるところである。本件木刀は、布紙等でおおわれることなく、はだかのままで無雑作におかれていること、助手席窓からは本件木刀の一部が見える状態であること、もつとも運転席横の右ドアーを閉めたとき、本件木刀は運転席右側窓からは見えず、又は後部坐席に本件木刀を置いた場合にもそこに人が坐れば本件木刀が見えなくなるがこれらをもつて、本件木刀を風呂敷等で隠したときと同様であると解するのは如何にも不当である。けだし、ドアーを閉めるのは自動車運転者が自動車を運転通行するに当つて当然守るべき事項であり(道路交通法七一条四号)自動車内の坐席に人が坐るのは自動車の本来的用法に外ならず、これをもつて本件木刀を隠す意思があつたものと見ることは法的価値判断作用に伴う経験法則適の用を誤まるものという外はないからである。

これらの諸事実ならびに前記(一)で見たような諸事実に照してみるときは、本件木刀は他人の眼にふれぬような状態に置かれたものとは認め得ず、また被告人において本件木刀を隠す意思があつたものと認めることはできない。結局被告人は、本件木刀を隠して携帯していたものということはできない。

四、以上判示したとおり、被告人の所為は、軽犯罪法一条二号の罪にあたらないから、刑事訴訟法三三六条により無罪の言渡をする。 (西澤豊)

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